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20代web編集者の雑記

台風の夜と車の未来

昨晩、台風の中を車で走っていたときのこと。
ふと、 先月米国を襲ったハリケーン「Irma」から避難するテスラ社製の電気自動車オーナーに対して、同社が行ったことが頭に浮かんだ。

避難をしている車両のスペック(航続距離)を一時的に上げ、少しでも早く危険地域から脱出できるように対応した。 www.evjournal.jp

これは良い対応の例だが、そのようなことが遠隔操作でできるということは、逆のこともあり得てしまう。それが恐ろしいと感じた。 (台風の夜道の中、よそ事をしながら運転しているのとどちらが恐ろしいのだろうか)

ある、というか、いくつかの米国のドラマや映画ではサイバーテロが街や人を襲う描写がある。 一箇所で管制している信号機や航空機の離発着、送電網など、あらゆるものが何者かに侵入され、コントロールを失うというものだ。

スクランブル交差点のすべての信号が青になって、人も車もみな一斉に交差点の中心に向かって突っ込んでしまったり、突如の一斉停電に困惑する人々、…など。

そして、電気自動車が突然制御を失うパターン。 正確には誰も制御できなくなるのではなくて、制御できる人が運転手ではなくなり、他の誰かになる。

電気自動車は便利だけれど、潜在的にそのような脅威を持っている。しかも、杞憂ではなくてかなり現実的な話としてだ。 www.itmedia.co.jp

ここまでのことでなくても、次のようなことがあるかもしれない。

11月のある朝、仕事に出かけようといつものように車のスタートキーを押す。しかし、様子が少し違う。 ボタンを押しても、モーターが起動しない。

「高性能なくせにもう故障かよ。寒いから早くしろってんだ」 悪態をつき、ハンドルの上部を握りこぶしで叩いて怒りをあらわにする。

同時に、中央の操作パネルだけが静かに立ち上がる。ポン、という電子音とともに、1行のメッセージを表示した。

「幾度の催促にもかかわらず、お客様の9月のローンのお支払いが、昨日時点でまだ確認できておりません。ご入金が確認できるまで、モーターの起動を制御させていただきます」

ローンを完済するまでは、車の所有権が信販会社にあることは珍しくないし、そもそもローンを何ヶ月も滞納すること自体が問題ではあるのだが。 それにしても、という気持ちがしないでもない。

車のモーターとOSを立ち上げ、少し焦った様子でログインを進める。 スマートフォンをお尻のポケットからダッシュボードに出しながら時間を確認すると、デートの待ち合わせまであと30分を切ったところだった。

「免許証を画面にかざしてください」「免許証が確認できました」 無事にログインができたようだ。

「これでようやく発進できる。急がないと」 その矢先。ポン、という警告音とともに新たなメッセージが表示される。

「3ヶ月以内にスピード違反履歴があります。60 キロの速度制限が適応されます」

確かに、スピード違反者への対応策は、そもそも違反に達する速度が出ない車に乗ってもらうことなのかもしれない。

上の例は架空の未来ではあるが、運転手以外が制御できる車の場合は、"社会的に"ハッキングされることもありえなくはない話である。

また、セキュリティ対策ソフトウェア業界が、自動車にもその市場を拡げることもあるだろう。車の維持費に新しい項目が追加されてしまう。 安全のためには必要なものなのかもしれないが、そもそも自動車にはサイバーセキュリティ対策が必要だっただろうか。

このような意味で、IoT化されたものを持つということは、物質的に所有しているけど、いつその実質的な所有権を失うか分からないリスクもはらんでいる。

古く、かつ悲観的な考え方かもしれないが、平成生まれの20代(後半だけど)ですらテクノロジーに対してはこんな懸念も持ってしまう。

今日、ちょうどこんな記事(以下)が日経ビジネスで掲載されていたので、昨晩の車中、頭の中を嵐のように駆け巡った想像を綴ってみた。 business.nikkeibp.co.jp